地域の子どもへの関心の要因分析
犯罪から子どもを守るためとはいえ、防犯活動が行き過ぎると子どもの健全育成に欠かせない自由な行動が奪われかねません。したがって、子どもの自由な行動を確保しつつ子どもを見守るためには、出来る限り多くの住民が地域の子どもたちへ関心を高めることが必要だと思われます。困っている子どもを気にかけてあげる大人・頼れる大人の存在が多くいることが、自然な見守りの目を増やすことになります。
本論では、防犯まちづくりを展開している市川市の曽谷小学校区と鬼高小学校区をケーススタディとして、子どもへの関心が高い人の特徴を明らかにすることを目的としています。
出典:重根 美香 ・小島 隆矢 ・ 松本 早野香・ 大橋 宏行 ・ 山本 俊哉「地域の子どもへの関心の要因分析・市川市防犯まちづくり計画策定地区におけるケーススタディ その3」日本建築学会学術講演梗概集. F-1, 都市計画 2010年,pp 1005-1006
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研究の方法
対象地と調査方法
防犯まちづくり計画を策定している市川市の曽谷小学校区と鬼高小学校区をケーススタディとしています。曽谷小学校区と鬼高小学校区の特徴は、下表1のようにまとめられます。
表1.調査対象地の特徴
曽谷小学校区 | 鬼高小学校区 |
戸建て住宅が多い |
共同住宅が多い |
三世代同居割合が高い |
小学校児童数が多い |
自治会加入率が高い |
自治会加入率は中程度 |
地域活動が活発でかつ保護者層と高齢者層の世代差が少ない地域 |
地域活動は活発だが、保護者層と高齢者層の世代差がある地域 |
この2地区の保護者及び地域住民に対してアンケート調査を行いました。設問の概要は下表2の通りです。
そして、「地域の子どもに関心がある」を目的変数とし、その他の項目を説明変数として、ステップワイズ法による重回帰分析を行いました。
表2.アンケート調査質問項目一覧
地域の子どもへの関心を高める要因
属性
- 家族に小学生以下の子どもがいる(要因効果0.35**)
「家族に小学生以下の子どもがいる」回答者が「地域の子どもへの関心」が高いことは至極当然と言えますが、年齢別にみると、「そう思う」と応えたのは30代以下、40代の保護者層よりも60代、70代の高齢者の方が多い結果となりました。また、60代は地域の子どもへの関心の高い層が多い一方で、関心の低い層も他の世代と比べて多いことが分かりました。50代の関心が最も少ないという結果を含めて勘案すると、60代以上で地域の子どもへの関心が高い層は、自分の孫など近しい親族に小学生以下の子どもがいることが関連している可能性があります。
- 地域差や性差はない
性差や地域差、防犯活動の認知については、重回帰分析により有意性が認められませんでした。性別・地域別にクロス集計をしても、右図に示す通り有為な差はみられませんでした。2つの小学校区で顕著な地域差がある居住形態や自治会の加入率も重回帰分析による有意性は認められず、これらは子どもの関心を高める要因としての関連性は低いことが明らかとなりました。
近所づきあい
- 近所の人と防犯について話し合ったことがある(要因効果0.09**)
- あいさつ程度のつきあいがある人の人数(標準偏回帰係数0.08**)
会話やあいさつなどを通した近所づきあいが、子どもへの関心を高める要因となっていました。クロス集計をとると、ほぼ全ての項目で近所づきあいがあるほど、子どもへの関心も高まる傾向が有為にみられました。
「地域には良い人が多いと思う」ことも地域の子どもの関心に有為に関連しており、近所づきあいや人間関係の良好さが地域の子どもへの関心に影響していると思われます。
地域に対する関心
- 地域をよく知っている(標準偏回帰係数0.12**)
- 地域に関心がある(標準偏回帰係数0.38**)
- 地域活動には一部の人が関わっていると思う(標準偏回帰係数0.08**)
上記3項目が子どもへの関心に関連していました。
「地域活動には一部の人が関わっていると思う」も有為に関連しており、地域活動に関心があっても参加しづらいと感じている結果が現れていると推察されます。
地域に対する評価
- 子育てに良い地域だと思う(標準偏回帰係数0.18**)
- 祭りやイベントが盛んな地域だと思う(標準偏回帰係数0.08**)
子どもの成長・活動に対するポジティブな評価が地域の子どもへの関心に関連していました。両小学校区とも小学校主催のイベントに地域住民が参加し、自治会主催の祭りには多数の子どもたちが参加しており、イベントや祭りを通して子ども達と接することが、地域の子どもへの関心を高めている可能性が推察されました。
まとめ
地域の子どもへの関心を高める要因として、以下の4点が関連していることがわかりました。
- ①家族に小学生以下の子どもがいること
- ②あいさつ程度の近所づきあいや人間関係が良好であること
- ③地域に対する関心が高いこと
- ④地域を子どもの成長・活動に対してポジティブに評価できること
特に赤字下線で示した項目は、「防犯まちづくり活動」によって向上することが可能なものです。「防犯まちづくり」の目標として良好な近所づきあいの構築や、子どもがのびのび育つ地域づくりを掲げることで、地域の子どもへの関心が高くなり、自然監視性が生まれることで安全性が高まると思われます。