ジャージー・シティ問題志向型ポリシングの評価
実験計画法を用いて新しい警察活動方法の効果を評価
1990年代初頭、アメリカのニュージャージー州ジャージー・シティでは犯罪が多発しており、その対策が急務でした。そこで、ジャージー・シティ警察は、地元のラトガース大学犯罪予防研究所と共同で犯罪削減のための新たな警察活動を模索しました。その結果、採用されたのが問題志向型ポリシングです。問題志向型ポリシングとは、犯罪多発地点に焦点を当てて分析を行い、犯罪多発地点が抱える根本的な問題を解決することで犯罪を削減することを目指す警察活動をいいます。このプロジェクトの評価研究を担当したのがアンソニー・A・ブラガらの研究チームです。
ブラガらは、SARAモデルを用いて、問題志向型ポリシングの評価を行いました。
ステップ1:精査(Scanning)
ブラガらは、ジャージー・シティ内の強盗と暴行の認知件数と緊急通報数を確認し、地図ソフトを用いてホット・スポットを把握しました。そして、問題タイプ別にホット・スポットを分類し、それぞれの場所の特徴(公園や学校の存在、薬物取引所の存在)を明らかにしました。
ステップ2:分析(Analysis)
さまざまな基準を用いてホット・スポットを検討した結果、ブラガらは犯罪多発の要因には「秩序違反行為(犯罪には至らないが人々にとって迷惑な行為)」が関連していると分析しました。それは、軽微な犯罪を放置すると地域が荒廃し、やがて重大犯罪の発生に至るという割れ窓理論からも支持されると考えられました。
ステップ3:対応(Response)
これらの精査・分析の結果、問題志向型ポリシング戦略を実施することが決定されました。そしてブラガらは、その効果を測定するために実験計画法という評価手法を用いました。具体的には、精査・分析段階で選定したホット・スポット56カ所をコインの裏表で2つのグループに分類し(無作為に割付け)、問題志向型ポリシングを実施する実験群と伝統型ポリシング(通常の警察活動)を実施する対照群に分けました。実験群では、警察による徒歩・車両パトロールの強化、浮浪者や不審者への職務質問強化、薬物取引所(対象地区内に存在する場合)の徹底取締、市当局の協力を得て空き地の管理、ごみ清掃、証明の改善、落書きの除去などを実施した。他方、統制群では、従来どおり、警察は任意のパトロールと事件発生後の対応のみを行いました。
ステップ4:評価(Assessment)
ブラガらが実験計画法を用いて測定したのは、以下の4点です。
測定項目 | 評価結果 |
---|---|
犯罪認知件数 |
実験群において、強盗、財産犯の認知件数が統計的に有意に減少した。 統計的に有意ではないが、暴行、秩序違反、バンダリズム、薬物事犯が減少した。 |
警察緊急通報数 |
実験群で、路上の喧嘩、財産犯、薬物犯が統計的に有意に減少した。 統計的に有意ではないが、強盗、秩序違反が減少した。 |
秩序違反 | 11カ所中10カ所で減少した。※1カ所は、データ収集方法に問題があったので除外された。 |
犯罪の転移・利益の拡散効果 | 問題志向型ポリシングでは有意な転移・拡散を確認できなかった。 |
これら4つの指標をもとに、ブラガらは、「問題解決型ポリシングは、伝統型ポリシングよりも暴力犯罪認知件数と警察通報件数の削減に有効である。」との結論を下しました。
参考文献
Braga, A. A., Weisburd, D. L., Waring, E. J., Mazerolle, L. G., Spelman, W., & Gajewski, F. (1999). Problemoriented policing in violent crime places: A randomized controlled experiment. Criminology, 37(3), 571-580.